sifue's blog

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理系って社会の何? その2 -理系が先端技術を学ぶという事

今回も引き続き理系って社会の何?というテーマでコラムを書いて行きます。まだその1を読んでいないという方は、先に
http://d.hatena.ne.jp/sifue/20050314#p1
から読んでもらうようにお願いします。

この度は、特に理系が先端技術を学ぶという事について書いていきたいと思います。
これを読んでいる文系のみなさんは、理系の学問ってどれぐらい難しいか知っているでしょうか。途中で物理や数学を投げ出してしまった人にしてみれば、どう考えても想像の範囲外ですよね。ただ、文系の尺度で考えると、その知識量や理論理解量というのは、どの一分野を取ってみても、例えば、新しい事例などを含んだ法律の分野の知識量よりも多いのではないかと思います。ちなみに自分が勉強してきた、アトキンス物理化学上下巻、ヴォート生化学上下巻、ボルハルトショアー有機化学上下巻という6冊の専門科目の教科書(実はヴォート生化学以外はかなり簡単な専門科目の教科書)があるのですが、少なくともこれを全部重ねてみると大きさはA4で厚さは広辞苑より厚く、その内容も相当濃く、一つの式を解釈するのに1時間とか平気でかかったりするものもあります。
更にこれらの教科書は、近年どんどん内容が増えてきており、加えて更に専門的な分野や、まったくの異分野との複合分野なども誕生しており、その範囲は増える一方です。つまり、この理系の学問の知識量というのは時間が経てば経つほど、体系化され会得すべき知識量はどんどん増えていくという事です。まあ、研究され新しい技術が社会に生まれるという事は、まさに体系化された知識量が増えるという事なのだと思います。
ちなみに、自分たちが高校で習う理系の科目の数学や物理や化学というものは、その殆どが1950年以前に体系化された知識であると認識していいのではないのかと思います。となるとどうなるかというと、大学の理系で学ばなくてはならない知識量と言うのは爆発的に増えて行っているいるという事です。ここ十数年の人類の技術的な進歩からもこの事は簡単に想像されるのではないでしょか。
今思えば現在の教育内容で30年前や20年前はまだまだ良かったのかもしれません。ただし、先端分野がどんどん広がり、理系の学生の学ばなければならない知識量が爆発的に増えるたびに、理工系学生の知識の質というのはどんどん低下していかざるを得ない状況にあります。
例えば、優秀な弁護士になるための知識量の現在と昔の格差と、優秀なエンジニアやサイエンティストになるための知識量の現在と昔の格差は、明らかに後者の方が大きいのではないかと思います。
そしてこれらを含め、この状況と現状の日本の国が行なっている教育はかなり食い違いがある事がわかります。理工系の学問がこのような状況になっているにもかかわらず、理系のための学問の指導要領はどんどん簡化するばかり、更に、理系に進んで苦学したにも関わらず文系で就職した人に比べて、あまりに安月給であり、つらい待遇を受けなければいけません。この事はあの有名な理系白書にもしっかり書かれているので、今更いう気がありませんが、一生懸命勉強して、仮に世界で戦えるほどになったとしても、文系で就職した人に比べて生涯年収で家1件分ほどの格差になってしまう。まあこんな状況から、日本を知財立国とか技術立国とかにしようという言葉が出てくるんだから世の中不思議なものです。
しかしながら、そもそも文部科学省で働く官僚の中には理系出身の技官はほどんどおらず、確実に文系出身の官僚が上に上がっていく体制ですので、理系の学問の状況に気を配って欲しいと思う自体、無駄な気がしてしまいます。
以前、シリコンバレーで働く元技術者のビジネスマン日本人などが集まるNPOの方の話を聞いたときに、シリコンバレーには日本を愛して行こうと思う人と、日本は捨てて海外で働こうという人は大体今は半々ぐらいと言っていました。今後、これ以上今の状況が続くと、確実に後者の方が増えて行くんじゃないかと思います。
思えば、おとといあたりに内閣から出た「日本21世紀ビジョン」の最終案で、日本は今後、文化創造国家を目指すという事が書かれていました。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050319AT1F1801318032005.html
ある意味懸命な判断かもしれませんが、今までの事を考えると本当に遠回りをしたように思います。
元某A日新聞の北京支局長さんと話した時に、バブルがはじけた後、日本が生き残っていくためのカードは昔3つあったと話していました。それは、「経済」「技術」「文化」であるとの事で、自分はもう既に「経済」「技術」の分野ではかなり遅れを取ってしまったのではないかと思います。さらに、「文化」に関しても、観光分野ではタイや韓国の観光先進国には大きく遅れを取ってしまったし、今更何の応援もしてくれなかったアニメやゲームやオタク文化などに取り掛かるというのも非常に残念な話です。
このような政府の打ち出す方針を見ていると、まるで20年後30年後の日本を長期的戦略で見る事が出来ない、流行モノばかりを追いかけるようなそのような体制にあるのではと疑わざるを得ません。こういう時にこそ、大前研一の70年代に出した企業参謀という本の中に書かれてある、政府内の戦略的志向を行なうセクションというのが必要になるんじゃないかと思っています。
前回のコラム、理系って社会の何?その1の方は、かなり自由理系同盟のリンクをたどって来てくれた方が多かったようで、トラックバックをしていただいた人の意見も非常に参考になりました。今後ともよろしくお願いします。
今後も、文理融合、理系の大学院進学率の高さ、博士課程からポスドクへ、理系の文系就職の増という風に書ける所まで書いていこうと思います。