sifue's blog

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DNAだけで生命は解けない〜「場」の生命論〜

この度紹介するのはこの本です。

DNAだけで生命は解けない―「場」の生命論

DNAだけで生命は解けない―「場」の生命論

学術論文を発行しているシュプリンガー・フェアラークが出しているだけあって、非常に深い内容ですが、今まで読んできた科学哲学本の中では最高峰に位置する本だと思います。価格も日本語版は3200円しますが、正直内容的には、The molelular biology of The cellに匹敵するほどのものなので、2万円出しても良いぐらいの本かもしれません。生命科学や医療に携わる方、最先端技術に携わる方、また、教育に携わる方にもぜひ読んでもらいたい本です。
内容を要約すると、以下のようにまとめられると思います。

  • それぞれの場で生じる多様性こそ至高のものである。
  • 淘汰と協調の両方が生命のパターンを形成し、全てが関係し合いカオスの中に堅牢な動的安定性を生む。

今までの最先端生命科学は、ダーウィンの提唱した進化論とDNAの発見より進展した分子生物学より構成されていましたが、DNAは生命の全てを記述したものではないし、ましてや淘汰だけで生命が成り立っているものではなく、場というさまざまな環境要素や他の生命にも影響を受けつつ非常に高い動的安定性を持った自然との統一的な系である、ということがこの本には書かれています。
難しくなってしまいましたがちょっと簡単に解釈すると、淘汰の概念だけでは生命は多様性を失っていく方向に進んでいくはずだが実際はそうはなっていない、ということなのです。実際には、生命は、どんどん多様性を増やし、淘汰とそれら生命同士の協調のサイクルの中で非常に強固な安定性を生み、高い生命の質を作り出しています。そして、全ての種が自然との比類ない関係を持っており、それらに敬意を払った生き方、研究が必要である、というのがこの本の主張です。
分子生物学的に非常に学ばなければならないのは、遺伝子は、式を記述したもので、生命の形を記述したものではないということでしょうか。タンパク質一つの分子機械としての特性が生命を作り出すのではなく、それらの相互作用における動的な複雑系が作り出すのが生命であり、それらは環境によって生命の形を変えて、しかも摂動や揺らぎに対して非常に安定した形で出現するというところです。
発生学として学ぶべき所は、形態形成における法則性でしょうか。例えば全ての生命の形は、同時の2分岐までしか許しておらず、全ての生命の形状において、統一された概念が貫きとうされている。また、生み出された自分自身もが生成する「場」に非常に多くの影響を受け、2つの別の遺伝子が補完しながら生命を形作り、それらを数学的なシミュレーションで再現するというところにおもしろみがありました。
実際の内容は、ダーウィニズムの盲点、DNA(セントラルドグマ)だけでなぜ生命が語れないのか、新約聖書の原罪/贖罪の概念に縛られている生命科学、「ワイスマンの障壁」を継承する「生成の場」の概念、化学的なパターン、BZ反応(ベローソフ・ジャボンスキー反応)、堅牢な動的安定性、フィボナッチ数列と黄金分割、非線形モデル、ホメオティックな形態形成、複雑系セルラーオートマトン、カオスのエッジにおける生命、対称性の破れ、遊びと遊び様行動の意義、量の科学に対する質の科学、関係の「場」、心の単一栽培、「健康」の生物学的基礎、生命の質、これらをキーワードに、かなりの量の先端科学文献、科学実験的事例、著作、キリスト教やその他の宗教概念、哲学、社会学的実験などを比較しながら統合的に論じています。
本の内容自体があまりにもよくまとまっていて、なかなか要約することができませんが、生命の持つ方向性や、人間として、生命としての生き方、研究方針を教えてくれる非常に良い本でした。ぜひ、研究に携わる方は、捨て銭になったとしても買って良い本だと思います。
合わせて読むと非常に面白い本は、以下のとおり。
科学哲学としては、

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

以上と読み合わせると、科学の生命に対するスタンスがよく分かります。
ポジティブな面の社会学的なアプローチとしては、
聖書

聖書

武士道 (PHP文庫)

武士道 (PHP文庫)

ネガティブな面の社会学的なアプローチとしては、
日本人に謝りたい―あるユダヤ人の懴悔

日本人に謝りたい―あるユダヤ人の懴悔

夜と霧 新版

夜と霧 新版

これらと読み合わせると、非常に生命、そして人間が持つ本性、カオスが生む動的安定性と関係の「場」そして社会についての哲学的理解が非常に深まるのではないかと思います。
だてに、ヒトゲノム計画の最も盛んな時期にこのタイトルで出しているだけありません、非常にオススメの本です。